公的年金の繰り下げ受給で年金を増やす!繰り下げ受給のメリットと注意点

2024/01/04最終更新

公的年金の繰り下げ受給で年金を増やす!繰り下げ受給のメリットと注意点

老後資金の柱となる公的年金。基本的には60歳までの加入実績で金額が決まり、そこから大きく増やすことはできないと思っている方も多いのではないでしょうか。しかし、年金の受け取りを本来の65歳から遅らせる「繰り下げ受給」を選択すれば、最大42%(2022年4月からは84%)も年金額を増やすことが可能です。このように繰り下げ受給は、年金を増やすための有力な選択肢といえそうですが、一方で注意したい点もあります。今回は繰り下げ受給を検討する際に重要となるポイントを解説します。

公的年金繰り下げ受給の
基本

まずは、繰り下げ受給の対象となる年金、繰り下げた場合の年金の増加率、手続きなど基本的なポイントをみてみましょう。

繰り下げ受給できる年金の種類は?

繰り下げ受給できる年金の種類は?

繰り下げ受給の対象となるのは、原則として65歳から受け取ることができる老齢年金のみ。遺族年金や障害年金は対象外となります。
会社員や公務員の場合、老齢年金は加入期間に応じて決まる「老齢基礎年金」と、加入期間とその間の給与水準に応じて決まる「老齢厚生年金」の2階建てとなり、そのいずれか、もしくは両方で繰り下げ受給することができます。
なお、性別、生年月日によって(※)60代前半に「特別支給の老齢厚生年金」を受け取れる人がいますが、この部分は繰り下げ受給の対象外となります。

  • 男性では昭和36年(1961年)4月2日以降生まれの方、女性では昭和41年(1966年)4月2日以降生まれの方には「特別支給の老齢厚生年金」はありません。

繰り下げ受給した場合の年金増額率、手続きは?

繰り下げ受給した場合の年金増額率、手続きは?

繰り下げ受給の増額率(66~75歳)

請求時の年齢 増額率
66歳 8.4%~16.1%
67歳 16.8%~24.5%
68歳 25.2%~32.9%
69歳 33.6%~41.3%
70歳 42%~49.7%
71歳 50.4%~58.1%
72歳 58.8%~66.5%
73歳 67.2%~74.9%
74歳 75.6%~83.3%
75歳 84%

年金を繰り下げ受給すると、本来の受給年齢である65歳から1カ月繰り下げるごとに0.7%ずつ増額率が加算されます。例えば、70歳まで5年間繰り下げると、42%の増加(=5年×12ヵ月×0.7%)となります。なお、2022年4月からは最大75歳まで繰り下げ可能となり、その場合は84%も増加します(※1)。
1 1952年(昭和27年)4月2日以降生まれの人が対象

夫婦2人の標準的な年金額(※2)で考えると繰り下げ受給を行った場合の年金額は概ね以下の通りです。
65歳から受け取り(原則通り):約22万円
70歳から受け取り(5年繰り下げ):約31万円
75歳から受け取り(10年繰り下げ):約40万円
2 厚生労働省「令和3年度の年金額改定について」に記載された夫婦2人の標準的な年金額。平均的な収入[平均標準報酬(賞与含む月額換算)43.9万円]で40年間就業した場合に受け取りはじめる年金[老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額)]の給付水準

年金の繰り下げ受給を希望する場合、請求手続きをしなければ自動的に繰り下げとなり、受け取りたい時期に請求を行う仕組みとなっています。

繰り下げ受給のメリット
~年金を大きく増やすことができる~

繰り下げ受給のメリットはやはり年金を大幅に増やすことが可能という点でしょう。さらには増額となった年金を一生涯受け取れる点も重要なポイントです。
前述した通り、年金額を最大42%(2022年4月からは84%)も増やすことができます。老後のための蓄えがある程度ある場合や、65歳以降も働いて収入がある場合などは、繰り下げ受給を選択することで「長生きによる老後資金の枯渇リスク」をあまり気にせずに年金で安心して過ごすことができます。

繰り下げ受給の注意点
~年金の増加率ほど手取りは増えない可能性~

公的年金は、公的年金等控除が適用された後の金額が雑所得として所得税・住民税の課税対象となります。所得税は所得が多くなるほど多くなった分に対して高い税率が適用される仕組み(超過累進課税)です。
また。国民健康保険などの社会保険料は所得に応じて上がり、70歳以上の医療費の自己負担割合も所得に応じて上がる制度となっています。
このため、税金や社会保険を考慮した場合、繰り下げ受給による年金の増加率ほど手取りでは増えない可能性があります。
また、老齢厚生年金のいわば「家族手当」に相当する加給年金(※)は、老齢厚生年金を受け取っていなければ受け取れません。

  • 厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人が、65歳到達時点(または特別支給の老齢厚生年金の定額部分支給開始年齢に到達した時点)で、生計を維持されている65歳未満の配偶者または18歳未満の子がいるときに加算される年金(昭和18年4月2日以降生まれの場合、2021年度の配偶者加給年金額は年間約39万円)

加給年金額と振替加算(日本年金機構のサイトへリンクします)

繰り下げ受給の損得にこだわるべきではない

繰り下げ受給をした場合、しなかった場合よりも長生きすればするほど得になります。計算上は、65歳で通常通り受け取った場合と70歳に繰り下げた場合では、81歳より長生きすれば繰り下げが得。65歳で通常通り受け取った場合と75歳に繰り下げた場合では、86歳より長生きすれば、繰り下げが得となります。
このため、繰り下げ受給の開始後まもなく亡くなるようなケースでは、結果的に繰り下げ受給が損だった、ということもあり得ます。

ただし、何歳まで生きるのかはわからないだけに、このような損得の計算にこだわるのはあまり得策ではないように思われます。

また、前述の通り税金や社会保険も考慮する必要があるため、繰り下げ受給の損得を厳密に計算することは非常に困難といえます。
公的年金の最大のメリットは一生涯にわたって受け取れる安心感です。老後の蓄えを取り崩していく場合、長生きによる枯渇リスクがありますが、繰り下げ受給を選択すれば、増額された年金を一生涯受け取れる点に注目すべきでしょう。

今後は繰り下げ受給が増加する可能性も

すでに65歳までの雇用確保が法律上、企業に義務付けられていますが、2021年度からは70歳までの就業機会の確保が努力義務となりました。今後は65歳以降も働くケースが増加するとみられます。65歳以降も働いて収入がある場合、その期間は年金を受け取らずに足りない分はそれまでの蓄えを取り崩し、完全リタイア後に繰り下げ受給をすることは有力な選択肢となりそうです。
65歳で仕事を辞める場合でも、しばらくの間はそれまでに築いた資産を運用しながら取り崩して生活費に充て、その後、繰り下げ受給をすることも考えられます。
現状では、繰り下げ受給を選択する人は多くありませんが、65歳以降も働くケースが増えれば、繰り下げ受給も増加する可能性がありそうです。

まとめ

公的年金を繰り下げ受給すれば、最大42%(2022年4月から84%)も年金額を増やすことができるため、今後、老後に備える有力な選択肢になりそうです。
繰り下げ受給は長生きすればするほど得といえますが、そもそも何歳まで生きるのかわからないうえに、実際は税金や社会保険も考慮する必要があるため、厳密に損得を計算することは困難です。
公的年金の最大のメリットは一生涯にわたって受け取れる安心感。さらに繰り下げ受給を選択すれば、増額された年金を一生涯受け取れることです。
このため、年金の繰り下げ受給は、長生きした場合の資産の枯渇リスクへの対策として活用するのが1つの考え方となるでしょう。
年金を繰り下げる場合、年金を受け取るまで手持ちの資金をある程度取り崩すことを想定すれば、自助努力による老後への備えも重要といえます。定年後、完全リタイアまでの間は、「NISA」等の税制優遇の制度をうまく活用した資産形成などを検討してみましょう。

本記事は2024年1月4日の情報に基づいて作成しておりますが、将来の相場等や市場環境等、制度の改正等を保証する情報ではありません。

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