相続放棄の手続きの流れ・必要書類|自分でできるケースや注意点とは
公開日:2023/09/04
更新日:2025/09/09

親や配偶者・兄弟姉妹が亡くなったとき、「借金まで引き継ぐことになるのでは」「相続放棄する場合はどうすれば良いのだろう」と不安に感じる方もいるのではないでしょうか。相続にはプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も含まれるため、慎重な判断が求められます。
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)が残したすべての財産の相続を放棄することです。それにより、被相続人が抱えていた借金等の返済義務を負うことがなく、遺産分割協議に関与することもなくなります。ただし、相続放棄をするためには、期限内に必要書類を準備し、所定の手続きを行う必要があります。
この記事では、相続放棄の基本や、混同されやすい財産(遺産)放棄との違い、メリット・デメリット、手続きの方法、必要書類などを解説します。また、自分で手続きが可能なケースと、専門家に依頼することが望ましいケースの判断ポイントについても紹介するので、相続に関して不安があるという方は、ぜひ参考にしてください。
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相続放棄とは?財産(遺産)放棄との違い

法定相続人が遺産相続をしない方法には、「相続放棄」と「財産(遺産)放棄」の2通りがあります。
本記事では相続放棄について詳しく解説していきますが、まずは、相続放棄と財産(遺産)放棄の違いからみていきましょう。
相続放棄とは「すべての財産の相続を放棄すること」
相続放棄とは、家庭裁判所にて手続きし、相続予定だったプラスの財産とマイナスの財産すべてを放棄することをいいます。相続放棄の手続きをすることで「最初から相続人ではない」扱いとなるのが特徴です。
相続放棄には、借金などの負債を相続せずに済むこと、ほかの相続人に伝えることなく単独で手続きできることなどのメリットがあります。
ただし、相続放棄するには、期限内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。また相続放棄により相続人の権利が本来相続人ではなかった人に移ってしまうケースなど、単独で手続きをすると、トラブルになってしまう可能性があるため注意が必要です。
なお、相続が開始すると、相続人は単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選択できます。それぞれの概要は、以下のとおりです。
単純承認:相続人が被相続人の権利・義務をすべて引き継ぐ
限定承認:相続財産のうちプラスの財産の範囲内でマイナス(債務)を引き継ぐ
相続放棄:被相続人の権利・義務をすべて引き継がない
相続放棄をするかどうかの判断にあたっては、単純承認や限定承認との違いを知っておくことも大切です。
相続放棄と財産(遺産)放棄の違い
相続放棄とよく混同される用語に、「財産(遺産)放棄」があります。財産(遺産)放棄とは、ほかの相続人との遺産分割協議において、故人の財産(遺産)を引き継がない旨の意思表示をすることを指し、相続放棄とは異なります。
あくまでも相続人の意思表示であるため、家庭裁判所での手続きも必要ありません。また、放棄の方法も決まっていないため自由です。被相続人に債務がなく、財産を相続したくない場合や、相続権の移動を避けたい場合に財産(遺産)放棄は有効な選択肢といえます。
一方で、財産放棄はあくまで遺産分割の結果として財産を受け取らないだけであり、債権者の同意がない限り、負債を免れることはできない点に注意が必要です。
相続放棄ができない場合も把握しておこう
相続放棄しようと思っても、手続き上あるいは法制度上の問題から、相続放棄ができないケースもあります。どのようなケースにおいて相続放棄ができないのか、確認しておきましょう。
熟慮期間を過ぎた場合
相続放棄は、相続人が相続の開始があったことを知ったときから、3ヵ月以内に行わなければなりません。
この期間を「熟慮期間」と呼びます。熟慮期間を過ぎてしまうと、相続放棄ができなくなるため注意しましょう。期限内に書類を提出していたとしても、書類に不備があり、期限内に書類を揃えられなければ相続放棄はできません。
なお、正当な理由があれば熟慮期間延長の申し立てが可能です。正当な理由に該当するかは、弁護士などに確認してください。
単純承認が成立してしまった場合
熟慮期間が経過した場合や、熟慮期間内であっても相続人が相続財産の全部または一部を処分(売却・消費等)した場合は、単純承認となります。
単純承認が成立すると、相続放棄はできません。また、相続人が遺産を隠した場合にも単純承認が成立します。
その他
すでに遺産分割協議書に署名・捺印している場合、原則として相続放棄ができず、祭祀財産(家系図や仏壇、十字架、墓石など)も相続放棄できません。
なお、相続放棄にあたって、相続放棄時に被相続人の財産を占有している場合は、相続人等に引き渡すまでの間、その財産について保存義務があります。
相続放棄をしたほうが良いケースは?
相続人となった時点では、資産と負債がどの程度あるのか、ほかの相続人がどのような対応を検討しているかなどがわからず、相続放棄すべきか悩むかもしれません。どのようなケースだと、相続放棄したほうが良いのでしょうか。
一般的に、次のような相続放棄のメリットが大きいケースでは、相続放棄をしたほうが良いといえます。
- 明らかに資産より負債が多い場合
- 親族間の相続問題に巻き込まれたくない場合
ただし、相続の状況は人によって大きく異なります。一度相続放棄してしまうと撤回はできないため、弁護士などの専門家に相談しながら、相続放棄すべきか否かを慎重に検討しましょう。
相続放棄の手続き方法と必要書類
ここからは、実際に相続放棄する際の手続き方法と必要書類を紹介していきます。
相続放棄の申述先と申述期間
相続放棄の申述先は、被相続人が最後に住んでいた地域の家庭裁判所です。管轄の裁判所がわからない場合は、最高裁判所のホームページに掲載されている、裁判所の管轄区域をご確認ください。
前述のとおり、申述期間は相続の開始を知ったときから3ヵ月以内です。申述期間を過ぎると相続放棄の手続きができなくなるため、注意しましょう。
相続放棄に必要な書類
相続放棄には、相続放棄の申述書の提出が必要です。申述書の書式および記載例は、最高裁判所のホームページに掲載されているため、参考にしてください。
また申述には、下記添付書類の提出も必要です。添付書類には、申述人の立場に関係なく共通して必要になる書類と、申述人の立場によって必要となる書類があります。ご自身の立場から、必要な書類を確認しておきましょう。
■共通して必要になる書類
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人(相続放棄する方)の戸籍謄本
■申述人が被相続人の配偶者の場合に必要な書類
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
■申述人が被相続人の子どもまたはその代襲者(孫、ひ孫等)(第一順位相続人)の場合に必要な書類
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 申述人が代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
■申述人が被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)に必要な書類
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子どもやその代襲者で死亡している方がいる場合、その子どもや代襲者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合は父母))がいる場合、その直系尊属の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
■申述人が被相続人の兄弟姉妹およびその代襲者(おい、めい)(第三順位相続人)の場合(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)に必要な書類
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子どもやその代襲者で死亡している方がいる場合、その子どもや代襲者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 申述人が代襲相続人(おい、めい)の場合は、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
※同じ書類は1通で足ります。
※同一の被相続人に関する相続の承認・放棄の期間伸長事件または相続放棄申述受理事件が先行している場合、すでにその事件で提出したものは不要です。
※戸籍等の謄本は、「戸籍等の全部事項証明書」という名称で呼ばれる場合があります。
※申述前に入手不可能な戸籍等がある場合、その戸籍等は申述後に追加提出することも可能です。
※審理のために必要な場合は、追加書類の提出を依頼される場合があります。
参考:最高裁判所「相続の放棄の申述」
相続放棄にかかる費用
相続放棄の費用としては、下記が必要です。
- 申述人1人につき800円分の収入印紙
- 連絡用の郵便切手(金額は申述先の家庭裁判所に要確認)
除籍謄本などの必要書類の準備には、別途費用がかかるため注意しましょう。
また、弁護士や司法書士に手続きを依頼する場合は、相談・代行費用なども必要です。
【6ステップ】相続放棄の手続きの流れ

相続放棄の手続きは、相続人自身が行えます。ただし、手続きには専門的な知識も必要となるため家庭裁判所に相談しながら必要書類を準備していきましょう。ご自身での手続きに不安がある場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談して、手続きの一部または全部を代行してもらうのもおすすめです。
ここでは、相続人が自分で相続放棄の手続きを進める際の基本的な流れを6つのステップに分けて解説します。
ステップ1.遺言書の有無や記載内容を調べる
最初に確認したいのは、被相続人が遺言書を残しているかどうかです。
遺言書が見つかった場合、その内容にしたがって財産を分けることになります。ただし、遺言書があっても、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議による分配も可能です。
一方、遺言書が見つからない場合には、法定相続人全員で話し合いを行い、遺産分割協議書を作成して財産を分けることになります。
ステップ2.被相続人の財産調査をする
一度相続放棄してしまうと、その後撤回はできません。そのため、預貯金や不動産、負債など、被相続人の相続財産をすべて調べ、本当に相続放棄しても問題ないか検討することが重要です。あとになって多額の財産や負債が見つかり、後悔することのないよう、プラスとマイナス両方の財産を丁寧に確認しましょう。
預貯金は、通帳やキャッシュカード、郵便物などから金融機関を特定し、相続人であることを証明する書類(戸籍謄本や死亡診断書など)を提出すれば、口座情報の開示を受けられます。また、光熱費や携帯電話の利用料金などの定期的な支払いがないかも確認しておきましょう。
不動産がある場合は、権利証や固定資産税の通知書、登記簿謄本、名寄帳などを活用して、所有者の情報や権利関係、評価額の把握が可能です。
負債については、借入先との契約書や請求書などをもとに、借金の有無や総額を調査します。
財産調査は自分で行うこともできますが、内容が複雑で判断に迷う場合は専門家への依頼も検討しましょう。
ステップ3.相続放棄の手続き費用や書類を用意する
相続放棄を進めるには、あらかじめ必要な費用と書類を用意する必要があります。
手続きを自分で行う場合、家庭裁判所への申し立てにかかる費用は、おおむね3,000~5,000円程度です。ただし、相続人の人数や状況によって提出する書類が増え、それにともなって費用も変わる可能性があります。
ステップ4.家庭裁判所に相続放棄を申し立てる
必要な費用と書類の準備が整ったら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で相続放棄の申し立てを行いましょう。
申し立てには、相続放棄申述書に加えて収入印紙や連絡用の郵便切手、その他必要書類を添えて提出します。手続きは家庭裁判所へ直接持参するほか、原則として郵送でも可能です。郵送の場合は、普通郵便ではなく、書留や特定記録郵便など、追跡ができる方法を選ぶとよいでしょう。
ステップ5.家庭裁判所から照会書が届く
書類に不備がなければ、家庭裁判所から照会書が届きます。これは、相続放棄の申述が申述人本人の真意によるものかどうかを確認するための照会です。照会書に書かれた質問に回答し、家庭裁判所へ返送しましょう。
この段階では、相続放棄の意思や事情について簡単に記載しますが、記載内容によっては追加の確認が入ることもあります。
また、相続放棄を申し立てる前に遺産を使った、あるいは処分したという場合、「単純承認」とみなされて、相続放棄が認められなくなる可能性もあるため注意が必要です。
こうした点に不安がある場合は、事前に弁護士などの専門家に相談しておきましょう。
ステップ6.家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届く
照会書に正しく回答し、家庭裁判所による確認が済むと、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。これをもって、相続放棄の手続きは終了です。
なお、この通知書は一度発行されると再発行ができないため、紛失しないよう大切に保管しましょう。この書類を使う場面は通常はありませんが、債権者とのやりとりや金融機関の手続きで提示を求められることがあります。そのような場合に備えて、「相続放棄申述受理証明書」を別途発行しておくと安心です。
相続放棄は自分で手続きしても良い?
相続放棄は相続人本人が手続きすることも可能ですが、状況によっては専門家のサポートが必要になる場合もあります。
ここでは、自分で手続きをすることが可能なケースと、専門家への依頼が望ましいケースについてみていきましょう。
自分で手続きをすることが可能なケース
相続放棄の手続きは、状況によっては自分で行っても問題ありません。
例えば、次のようなケースであれば自力で手続きを進めることも十分に可能です。
- 相続財産の内容が明確で、調査が容易な場合
- 相続人同士の関係が良好で、トラブルの心配がない場合
- 相続人が少なく、調整や手続きに支障が出にくい場合
- 期限までに余裕がある場合
途中で不安を感じたときは、必要に応じて専門家に相談するのも有効です。部分的なサポートだけ依頼することもできます。
専門家に依頼することが望ましいケース
相続放棄は自分でも手続きできますが、状況によっては弁護士や司法書士など専門家への依頼が安心です。特に、次のような場合は法律の知識や判断が求められるため、専門家への相談を検討しましょう。
- 熟慮期間「3ヵ月以内」に間に合いそうにない場合
- 故人の財産状況が把握できない場合
- 財産が複雑で、プラスとマイナスの判断が難しい場合
- 相続人全員が放棄し、相続財産清算人の選任を要する場合
- 忙しくて対応が難しい、手続きに不安がある、または家庭裁判所からの照会に不安がある場合
状況に合わせて、自力で進めるか、専門家に任せるかを選ぶことが大切です。
相続放棄を行う際に知っておきたい注意点
最後に、相続放棄する際に知っておきたい注意点を4つ解説します。ここで解説する内容以外にも、ケースによっては注意すべき点がある可能性があるため、相続放棄の手続きを進める際には家庭裁判所などに確認しておきましょう。
相続人不在の場合は手続きが必要
相続人全員が相続放棄した場合は、家庭裁判所に申し立てをして、相続財産清算人を選任してもらいましょう。相続財産清算人は財産を管理し、清算する役割を担います。相続財産の清算手続き後、残った財産は国庫に帰属されます。
なお、相続財産が存在しない場合や管理の必要がない場合には、相続財産清算人の選任は不要です。
相続放棄すると代襲相続できない
本来の相続人である方が他界している場合、亡くなった方の子どもが相続人となることを代襲相続と呼びます。相続放棄した方は、最初から相続人とならなかったとみなされる(民法939条)ため、相続放棄した相続人に子どもがいたとしても、代襲相続は発生しません。
相続放棄しても保険金や遺族年金は受取れる
法律上で相続財産に含まれていない死亡保険金や遺族年金、死亡一時金は、相続放棄しても受取れます。ただし、保険・年金ごとに給付条件が細かく設定されているため、よく確認しておきましょう。
相続放棄すると相続人の順位が変更になる場合がある
相続人は被相続人との関係性によって、民法の定める相続の優先順位が決められています。被相続人の配偶者は常に相続人となり、被相続人の子どもが相続の第1順位、被相続人の父母・祖父母が相続の第2順位、被相続人の兄弟姉妹が相続の第3順位です。
相続放棄した人は最初から相続人でなかったという扱いになるため、相続放棄時に同順位の相続人がほかにいない場合、別の順位の相続人へと相続権が移ります。
例えば、被相続人に配偶者、子ども1人、父母がいた場合、配偶者が相続放棄すると相続権が発生するのは子どものみです。また、同条件で子どもが相続放棄すると、被相続人の父母にも相続権が生じます。
相続放棄をスムーズに行うためにも、相続放棄によって相続人の順位が変更となる場合は、次の順位の相続人に伝えておきましょう。
まとめ
相続人が財産を放棄するには、相続放棄と財産(遺産)放棄の2通りの方法があります。相続放棄とは、プラスだけでなくマイナスの財産も含めて、一切の相続を行わない意思を示す法的な手続きです。
相続放棄を行うには、相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内に、家庭裁判所に申述しなければなりません。放棄の可否や必要書類、進め方にはルールがあり、手続き中に被相続人の財産を処分しないなど、注意すべき点が多いのが特徴です。
また、状況によっては専門家に依頼したほうが確実なケースもあるため、手続き後の影響も含め、事前に情報を整理し慎重に対応しましょう。
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本記事は2025年9月9日時点の情報に基づいて作成しておりますが、将来の相場等や市場環境等、制度の改正等を保証する情報ではありません。