相続放棄の手続き方法や必要書類は?相続放棄すべきケースや注意点も解説

2023/09/04最終更新

相続放棄の手続き方法や必要書類は?相続放棄すべきケースや注意点も解説

「親の相続で財産が要らないから相続放棄した」など「相続放棄」という言葉を耳にすることがあります。また、「相続放棄」と似た言葉に「財産放棄」があることをご存知でしょうか。

財産放棄は法律上の用語ではなく、遺産分割協議で慣例的に使われている用語です。言葉が似ているため、財産放棄を民法における相続放棄と混同する方もいるかもしれません。

相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)が残したすべての財産の相続を放棄することです。それにより、被相続人が抱えていた借金等の返済義務を負うことがなく、遺産分割協議に関与することもなくなります。ただし、相続放棄するには、期限内に必要書類を用意して手続きをしなければなりません。

この記事では、相続放棄と財産放棄の違いやメリット・デメリット、相続放棄の手続き方法、必要書類などを解説します。相続時点で借金がある、相続人同士でトラブルが起きそうだという方は、ぜひ参考にしてください。

なお、本記事で解説しているのは、あくまで一般論です。ご自身のケースに当てはまるかどうかは、家庭裁判所や専門家である弁護士へ確認しましょう。

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相続放棄とは?財産(遺産)放棄との違い

相続放棄とは?財産(遺産)放棄との違い

法定相続人が遺産相続をしない方法には、「相続放棄」と「財産放棄(相続分の放棄)」の2通りがあります。

本記事では相続放棄について詳しく解説していきますが、まずは、相続放棄と財産放棄の違いからみていきましょう。

相続放棄とは「すべての財産の相続を放棄すること」

相続放棄とは、家庭裁判所にて手続きし、相続予定だったプラスの財産とマイナスの財産すべてを放棄することをいいます。相続放棄の手続きをすることで「最初から相続人ではない」扱いとなるのが特徴です。

相続放棄には、借金などの負債を相続せずに済むこと、ほかの相続人に伝えることなく単独で手続きできることなどのメリットがあります。

ただし、相続放棄するには、期限内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。また相続放棄により相続人の権利が本来相続人ではなかった人に移ってしまうケースなど、単独で手続きをすると、トラブルになってしまう可能性があるため注意が必要です。

なお、相続が開始すると、相続人は単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選択できます。それぞれ、以下のとおりです。

単純承認:相続人が被相続人の権利・義務をすべて受け継ぐ
限定承認:相続財産から被相続人の債務を清算し、財産が残っていれば余剰分を相続する
相続放棄:被相続人の権利・義務をすべて受け継がない

相続放棄をする際は、単純承認や限定承認との違いも知っておきましょう。

相続放棄と財産(遺産)放棄の違い

相続放棄とよく混同される用語に、「財産(遺産)放棄」があります。財産放棄とは、ほかの相続人と遺産分割協議において財産放棄の意思表示をすることを指し、相続放棄とは異なり、法的な相続権は失われないのが特徴です。

財産放棄には期限がなく、家庭裁判所での手続きも必要ありません。また、放棄の方法も決まっていないため自由です。

一方で財産放棄には、被相続人の負債の相続を免れる効果がない点、ほかの相続人との協議が必要な点に注意が必要です。

被相続人に債務がなく、財産を相続したくない場合や、相続権の移動を避けたい場合に財産放棄は有用だといえます。

相続放棄ができない場合も把握しておこう

相続放棄しようと思っても、手続き上あるいは法制度上の問題から、相続放棄ができないケースもあります。どのようなケースにおいて相続放棄ができないのか、確認しておきましょう。

熟慮期間を過ぎた場合

相続放棄は、相続人が相続の開始があったことを知ったときから、3ヵ月以内に行わなければなりません。

この期間を「熟慮期間」と呼びます。熟慮期間を過ぎてしまうと、相続放棄ができなくなるため注意しましょう。期限内に書類を提出していたとしても、書類に不備があり、期限内に書類を揃えられなければ相続放棄はできません。

なお、正当な理由があれば熟慮期間延長の申し立てが可能です。正当な理由に該当するかは、弁護士などに確認してください。

単純承認が成立してしまった場合

熟慮期間が経過した場合や、熟慮期間内であっても相続人が相続財産の全部または一部を処分(売却・消費等)した場合は、単純承認となります。

単純承認が成立すると、相続放棄はできません。また、相続人が遺産を隠した場合にも単純承認が成立します。

その他

すでに遺産分割協議書に署名・捺印している場合も、原則として相続放棄できません。また、祭祀財産(家系図や仏壇、十字架、墓石など)は相続放棄できません。

なお、土地は相続放棄可能ですが、相続放棄時に占有している場合は相続人等に引き渡すまでの間、土地の保存義務があります。

相続放棄をしたほうが良いケースは?

相続人となった時点では、資産と負債がどの程度あるのか、ほかの相続人がどのような対応を検討しているかなどがわからず、相続放棄すべきか悩む方もいるかもしれません。どのようなケースだと、相続放棄したほうが良いのでしょうか。

一般的に、次のような相続放棄のメリットが大きいケースでは、相続放棄をしたほうが良いといえます。

  • 明らかに資産より負債が多い場合
  • 親族間の相続問題に巻き込まれたくない場合

ただし、相続の状況は人によって大きく異なります。一度相続放棄してしまうと撤回はできないため、弁護士等の専門家に相談しながら、相続放棄すべきか否かを慎重に検討しましょう。

相続放棄の手続き方法と必要書類

ここからは、実際に相続放棄する際の手続き方法と必要書類を紹介していきます。

相続放棄の申述先と申述期間

相続放棄の申述先は、被相続人が最後に住んでいた地域の家庭裁判所です。管轄の裁判所がわからない場合は、最高裁判所のホームページに掲載されている、裁判所の管轄区域をご確認ください。

参考:最高裁判所「裁判所の管轄区域」

前述のとおり、申述期間は相続の開始を知ったときから3ヵ月以内です。申述期間を過ぎると相続放棄の手続きができなくなるため、注意しましょう。

相続放棄に必要な書類

相続放棄には、相続放棄の申述書の提出が必要です。申述書の書式および記載例は、最高裁判所のホームページに掲載されているため、参考にしてください。

参考:最高裁判所「相続の放棄の申述書(成人)」

参考:最高裁判所「相続の放棄の申述書(未成年者)」

また申述には、下記添付書類の提出も必要です。添付書類には、申述人の立場に関係なく共通して必要になる書類と、申述人の立場によって必要となる書類があります。ご自身の立場から、必要な書類を確認しておきましょう。

■共通して必要になる書類

  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人(相続放棄する方)の戸籍謄本

■申述人が被相続人の配偶者の場合に必要な書類

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

■申述人が被相続人の子どもまたはその代襲者(孫、ひ孫等)(第一順位相続人)の場合に必要な書類

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 申述人が代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

■申述人が被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)に必要な書類

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の子どもやその代襲者で死亡している方がいる場合、その子どもや代襲者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合は父母))がいる場合、その直系尊属の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

■申述人が被相続人の兄弟姉妹およびその代襲者(おい、めい)(第三順位相続人)の場合(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)に必要な書類

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の子どもやその代襲者で死亡している方がいる場合、その子どもや代襲者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の直系尊属の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 申述人が代襲相続人(おい、めい)の場合は、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

※同じ書類は1通で足ります。
※同一の被相続人に関する相続の承認・放棄の期間伸長事件または相続放棄申述受理事件が先行している場合、すでにその事件で提出したものは不要です。
※戸籍等の謄本は、「戸籍等の全部事項証明書」という名称で呼ばれる場合があります。
※申述前に入手不可能な戸籍等がある場合、その戸籍等は申述後に追加提出することも可能です。
※審理のために必要な場合は、追加書類の提出を依頼される場合があります。
参考:最高裁判所「相続の放棄の申述」

相続放棄にかかる費用

相続放棄では、下記が必要です。

  • 申述人1人につき800円分の収入印紙
  • 連絡用の郵便切手(金額は申述先の家庭裁判所に要確認)

除籍謄本などの必要書類の準備には、別途費用がかかるため注意しましょう。

また、弁護士や司法書士に手続きを依頼する場合は、相談・代行費用なども必要です。

相続放棄の手続きの流れ

相続放棄の手続きの流れ

相続放棄の手続きは、相続人自身が行えますが、手続きには専門的な知識も必要となるため家庭裁判所に相談しながら必要書類を準備していきましょう。ご自身での手続きに不安がある場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談して、手続きの一部または全部を代行してもらうのもおすすめです。

相続人が自分で相続放棄の手続きをする流れは、以下のとおりです。

① 相続放棄にかかる費用・書類を用意する
相続放棄にかかる費用を把握し、必要な書類を揃えましょう。

② 被相続人の財産調査をする
一度相続放棄してしまうと、その後撤回はできません。預貯金や株式、不動産、負債など、被相続人の相続財産をすべて調べ、本当に相続放棄しても問題ないか調べておきましょう。財産調査は弁護士などに依頼することもできます。

③ 家庭裁判所に相続放棄を申し立てる
必要書類を家庭裁判所に提出します。手続きは郵送でも可能です。

④ 家庭裁判所から照会書が届く
書類に不備がなければ、家庭裁判所から照会書が届きます。照会書に書かれた質問に回答し、家庭裁判所へ返送しましょう。

⑤ 家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届く
家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届けば、相続放棄の手続きは終了です。

相続放棄を行う際に知っておきたい注意点

最後に、相続放棄する際に知っておきたい注意点を4つ解説します。ここで解説するポイント以外にも、ケースによっては注意すべき点がある可能性があるため、相続放棄の手続きを進める際には家庭裁判所などに確認しておきましょう。

相続人不在の場合は手続きが必要

相続人全員が相続放棄した場合は、家庭裁判所に申し立てをして、相続財産清算人を選任してもらいましょう。相続財産清算人は財産を管理し、清算する役割を担います。相続財産の清算手続き後、残った財産は国庫に帰属されます。

なお、相続財産を管理する必要がない場合には、相続財産清算人の選任は不要です。

相続放棄すると代襲相続できない

本来の相続人である方が他界している場合、亡くなった方の子どもが相続人となることを代襲相続と呼びます。相続放棄した方は、最初から相続人とならなかったとみなされる(民法939条)ため、相続放棄した相続人に子どもがいたとしても、代襲相続は発生しません。

相続放棄しても保険金や遺族年金は受け取れる

法律上で相続財産に含まれていない死亡保険金や遺族年金、死亡一時金は、相続放棄しても受け取れます。ただし、保険・年金ごとに受給条件が細かく設定されているため、相続財産に含まれているかどうか、よく確認しておきましょう。

相続放棄すると相続人の順位が変更になる場合がある

相続人は被相続人との関係性によって、民法の定める相続の優先順位が決められています。被相続人の配偶者は常に相続人となり、被相続人の子どもが相続の第1順位、被相続人の父母・祖父母が相続の第2順位、被相続人の兄弟姉妹が相続の第3順位です。

相続放棄した人は最初から相続人でなかったという扱いになるため、相続放棄時に同順位の相続人がほかにいない場合、別の順位の相続人へと相続権が移ります。

例えば、被相続人に配偶者、子一人、父母がいた場合、配偶者が相続放棄すると子のみに相続権が発生します。また、同条件で子が相続放棄すると、被相続人の父母にも相続権が生じます。

相続放棄は各相続人で手続きを行う必要があり、申述には期限があります。相続放棄をスムーズに行うためにも、相続放棄によって相続人の順位が変更となる場合は、次の順位の相続人に伝えておきましょう。

まとめ

相続人が財産を放棄するには、相続放棄と財産放棄(相続分の放棄)の2通りの方法があります。相続放棄は法的な手続きであり、資産だけでなく負債も放棄できます。

相続放棄するには、相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内に、家庭裁判所に申述しなければなりません。手続き中に被相続人の財産を処分しないなどの点に注意しながら、必要な書類を整えて手続きしましょう。

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本記事は2023年9月4日時点の情報に基づいて作成しておりますが、将来の相場等や市場環境等、制度の改正等を保証する情報ではありません。

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