遺産相続でトラブルに!「争族」になりやすいケースとその対策
相続税が「かかる」「かからない」に関係なく、遺産相続をめぐるトラブルは起こる可能性が
あり、実際に近年増加傾向が続いています。兄弟姉妹など身内同士の「骨肉の争い」はできることなら避けたいものです。
ここではトラブルになりやすいケースと、トラブルを防ぐための対策について解説します。親の相続に直面することも多い、50代の皆さまはぜひ参考にしてください。
- 私が書きました
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- 主なキャリア
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大手生命保険会社、証券会社勤務を経て、2019年りそな銀行入社。
- ※りそなグループが監修しています
遺産分割をめぐるトラブルは近年増加傾向
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遺産分割をめぐるトラブルの件数を見ていきましょう。
法務省の司法統計年報(家事事件編)から遺産分割事件数の推移を確認すると「近年は増加傾向にある」とわかります。
一方、金額別の内訳では「5,000万円以下のケースが8割弱を占めている」ことが確認できます。
このことから、遺産分割をめぐるトラブルは遺産の多寡にかかわらず、誰にでも起こりうるものと考えた方がよさそうです。
以下より遺産分割をめぐってトラブルになりやすいケースについて見ていきます。ご自身が仮にこうしたケースに該当している場合は要注意です。
トラブルになりやすいケース1:
相続財産に占める不動産の割合が多い
現預金や上場株式、投資信託のような換金しやすい金融資産と異なり、不動産は分割しにくい財産の典型といえます。
地価の高い都市部などでは、相続財産に占める不動産の割合が大きくなるケースが多く、そのようなケースでは、遺産相続をめぐってトラブルになりやすい傾向があります。
不動産に関連したよくある相続トラブルの例
Aさんのケースで見てみましょう。
- <Aさんのケース>
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- 母親名義の都心の敷地に自宅(2世帯住宅)を保有し、母、妻と居住している
- Aさんのきょうだいは姉(既婚で遠方に居住)が1人
- 敷地は数年前に他界した父親から母親が相続
- 父親が他界した際、母親が全財産を相続している
- 母親の保有財産は土地7,000万円、金融資産3,000万円の合計1億円
Aさんは妻とともに長年住み慣れた現在の自宅に居住し続けることを希望している状況です。しかし、もしもAさんの母に相続が発生した際に姉が法定相続分を主張した場合は、宅地の売却を余儀なくされる可能性があります。
父に相続が発生する場合(一次相続)は、母が父の全財産を相続すれば、配偶者控除によって相続税がかからないことも多く、子ども達の間で折り合いがつきやすいといえます。
一方、母に相続が発生する場合(二次相続)では、子ども達の間での遺産分割となり、一転してトラブルに発展する可能性が高まります。
トラブルになりやすいケース2:家族関係が複雑
家族関係が複雑で、疎遠になっている相続人がいるケースも要注意です。
複雑な家族関係によって起こりうるリスクの例
Bさんのケースを見てみましょう。
- <Bさんのケース>
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- Bさんの父親には離婚歴があり、先妻との間に子どもがいる
- 後妻の子どもであるBさんは父の先妻の子どもとは会ったことがなく、連絡先も知らない
父親と先妻の関係は離婚した時点で法律上は他人となりますが、父親と先妻の子どもは、法律上の親子関係は変わりません。このため、Bさんの父親に相続が発生すると、先妻の子どもも法定相続人となります。
遺産分割の手続きには先妻の子どもにも参加してもらう必要があり、後妻であるBさんの母親やBさん、Bさんの兄弟姉妹のみで遺産分割協議はできません。
疎遠な関係にある相続人同士であれば、連続を取ることさえ困難であるケースもあるでしょう。仮に連絡が取れたとしても、遠方に居住していればスムーズな意思疎通ができないことも考えられます。また感情的なしこりから遺産分割をめぐってトラブルに発展するリスクもあります。
トラブルになりやすいケース3:子のいない夫婦
こちらは親の相続ではなく、自身の相続で想定されるリスクです。
子どものいない夫婦で夫が他界した場合、妻だけが法定相続人になると勘違いされている方も多いようです。
しかし実際は夫が他界した時点で、夫の親が健在なら親が、親が亡くなっている場合は夫の兄弟姉妹が、兄弟姉妹が亡くなっていればその子(甥、姪)が法定相続人となります。
法定相続分は、夫の親が健在なら、妻が3分の2、親が3分の1となります。夫の親がすでに亡くなっている場合は、妻が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります(甥、姪が法定相続人となる場合も同じ)。
子のいない夫婦の相続時に
起こりうるリスクの例
Cさんのケースを見てみましょう。
- <Cさんのケース>
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- Cさんとその妻の間に子どもはいない
- Cさんには遠方の実家に両親と兄妹がいる
このようなケースでCさんに相続が発生した場合、妻だけでなく、Cさんの両親も法定相続人となります。
両親が死亡していれば兄弟姉妹が、さらに兄弟姉妹が死亡していれば、甥、姪が法定相続人となります。
Cさんの妻がCさんの実家と良好な関係にあれば、さほど問題はないでしょう。
しかし、そうでない場合、Cさんの妻は遠方に住む義理の両親や義理の兄妹(甥、姪)と遺産分割協議を行う必要があるので、負担が大きくなります。トラブルに発展するリスクも高くなるでしょう。
遺産相続のトラブルを防ぐための対策例:遺言
遺産相続のトラブルを防ぐための対策の1つに遺言があります。
遺言とは
遺言とは、自分の死後の遺産分割等について意思を示すために作成する文書のことです。法的な効力を持たせるためには、自筆証書遺言、公正証書遺言など、それぞれの方式に応じて定められた要件を満たす必要があります。
遺言は故人の意思を示すものです。遺言があれば法定相続分に優先して遺産分割を行うことが可能となります。
遺言作成時は「遺留分」に留意する必要
遺言により示された故人の意思は法定相続に優先します。
一方で兄弟姉妹以外の法定相続人には、遺産に対して最低限の権利である「遺留分」が認められています。遺留分は法定相続分の2分の1です(直系尊属のみが法定相続人の場合は3分の1)。
遺言によって遺留分を侵害された法定相続人は、遺留分侵害額の請求によって遺留分相当の金銭を請求することができます。遺言作成にあたって無用なトラブルを防ぐために、遺留分に留意する必要があるということです。
ただし兄弟姉妹には遺留分がないため、子どものいない夫婦かつ夫の両親が既に他界しているケースでは、夫が遺言を作成することにより妻に全財産を残すことは可能です。
遺産相続のトラブルを防ぐための対策例:代償分割
先のAさんのように、相続財産に占める不動産の割合が高く、法定相続割合での遺産分割が困難な場合があります。その対策として「代償分割」があります。
代償分割とは
代償分割とは、法定相続分を超えて相続した相続人が、他の相続人に対して超過分を現金で交付することにより、平等に遺産を分割する方法です。
先のAさんのケースでは、母の相続発生時にAさんが土地7,000万円を相続、姉が金融資産3,000万円を相続し、Aさんが自分の保有する財産から2,000万円を姉に交付することにより、平等な遺産分割となります。このようにすればAさんは住み慣れた現在の自宅敷地を売却しなくても住み続けることができます。
代償交付金の準備方法として生命保険の活用も
親の相続発生時に代償分割を考えている場合は、代償分割に伴い、他の法定相続人に交付する現金(代償交付金)を準備しておく必要があります。
代償交付金の準備方法としては母を被保険者、自身を受取人とした生命保険の活用が有効です。これにより、母親の相続発生時に受け取った保険金を代償交付金に充てることができます。
遺産分割に関して不安があれば専門家へ相談を
遺産分割に関するトラブルや対策例について説明してきました。
ただ、実際に対策を考える場合は、最終的に弁護士、司法書士など専門家への相談が不可欠です。
一方、金融機関のなかには「遺言信託」といった商品を取扱っているところもあります。相続に関する知識を持ったスタッフが無料で相談に応じてくれるだけでなく、専門家の紹介をしてくれることもあります。あわせて検討してみましょう。
まとめ
遺産相続をめぐるトラブルは近年増加傾向にあり、他人事ではありません。
トラブルになりやすいケースとしては「相続財産に占める不動産の割合が大きい」「家族関係が複雑」「子どもがいない夫婦」などが挙げられます。
トラブルを回避する方法に遺言の活用や代償分割がありますが、実際に対策を考える場合には、最終的に弁護士、司法書士など専門家への相談が不可欠です。
なお、りそなでは、相続に関するご相談もお受けしております。まずはお気軽にご相談ください。
本記事は2021年4月6日の情報に基づいて作成しておりますが、将来の相場等や市場環境等、制度の改正等を保証する情報ではありません。